この研究のテーマは、日本の京都学派と中国の新儒家を中心として、東アジアの近代哲学の形成に当たって、仏教がどのような役割を果たしたかという問題を、広い視点から解明することである。しかし、このような研究はいまだ方法的にも十分確立しておらず、また、資料も個別的には多いものの、その総体は明らかでない。本年度は、まず資料の収集とともに、4回の研究会を開いて、背景となる哲学的問題について、問題をあまり限定せずに、討論を行なった。 研究代表者の末木は、広く日本近代思想の確立と仏教の関係について見通しをつけるとともに、主として京都学派の研究に従事し、昭和の戦争期に、京都学派の哲学者が「東洋的」かつ「日本的」なる哲学を確立するために、仏教に拠り所を求めたことを明らかにした。また、中国・アメリカの学会で発表し、近代日本と中国の仏教思想を通しての関係について見通しを論じた。 研究分担者の中島は、主として中国近代哲学とアメリカプラグマティズムの関係について研究を深めた。中国近代の代表的哲学者胡適は、アメリカに留学してプラグマティズムの影響を大きく受けながら、中国哲学の再構築をめざし、また、敦煌出土の禅資料をめぐって鈴木大拙と論争するなど、重要な役割を果たした。 重要な資料としては、中国現代仏教を代表する雑誌『海潮音』のバックナンバーの復刻が出版されたので購入し、その目次をもとに、記事のデータベースの作成を開始した。また、現代中国の代表的な研究者楼宇烈北京大学教授の論文「仏学と中国近代哲学」の下訳を作成し、それをもとに近代中国哲学と仏教についての見通しを得ることができた。研究会では、谷徹・新田義弘・中島隆博・麻生享志の各氏の発表により、近現代におけるアジアの哲学の可能性につて理解を深めた。
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