インド文化の一大特質をなす、雑多・異質な諸要素を包含しようとする「包括主義」ないし寛容精神が、論理的・合理的思考を重視するニヤーヤの学統(インド論理学派)において、どのような具体相をもって現れているかを、文献実証的に跡付けるために、9世紀後半に活躍したジャヤンタ・バッタという思想家を取り上げ、彼の主著『ニヤーヤ・マンジャリー』(NM)その他の関連文献の精読・内容分析を行って、彼の万教同根観を解明することが本研究の目的である。より具体的には、NM第3章において展開されるヴューダ聖典の信憑性(プラーマーンニャ)の論証を分析しつつある。3種の版本を照合するほか、アラハーバード写本も参照して、読みの訂正も行っているが、今後は最重要なシャーラダ写本の調査を行う予定である。さらに、論争相手となっているミーマーンサーの文献も合わせて解読している。特に、ジャヤンタに最も大きな影響を与えていると思われる、クマーリラの『シュローカ・ヴァールッティカ』の「教令章」も、注釈を精査しつつ解読に努めている。そのほか、ジャヤンタの哲学的戯曲『アーガマ.ダンバラ』も重要であるが、今年度は電子テキストの整備にとどまった。まとまった成果としては、NMにおける「六つのタルカ」の意味内容の解析が、従来のインド哲学史の理解を大きく修正する可能性があり、バラモン中心の「正統と異端」の括りが、当時のィンド哲学者にとって後代に見られるほど重要ではなく、むしろ聖典遵守のグループに対して論理を重視するグループが、宗教伝統の違いを超えてひと括りにされていることが明らかとなった点であり、近く論文で発表する予定。そのほか来年度は、国内学会2つと国際学会1つでの口頭発表・論文発表も行い、本研究の成果を学界に問う計画である。
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