三年計画の二年目となる本年度は、初年度の成果を承けて『統略浄住子浄行法門』全三十一章のうち、約三分の一に相当する分量に関して、現代日本語訳と関連注釈の作成を行なった。これとあわせて、既に前年度において作業を行なった箇所についての再検討も行ない、さらに、来年度に行なうべき作業の準備となる基礎的チェックも一部始めることができた。 以上の作業を遂行するために必要な資料の蒐集ならびに整理のために消耗品図書・コンピュータ関連諸費用・旅費およびデータ入力費等を使用し、また研究論文の作成にあたり英文論文校閲の謝金を使用した。 今年度にまとめ得た研究成果を記すと、訳注作業とは別に、五世紀末の在家仏教徒の活動を歴史的に概観する研究として、「聖者観の二系統-六朝隋唐仏教史鳥瞰の一試論」を執筆し、現在校正を行なっている。また五世紀における仏教の戒律受容史の総合的研究として、"The Acceptance of Buddhist Precepts by the Chinese in the Fifth Century"を公表した。このほか、昨年一〇月にはカナダ・バンクーバーのブリティッシュコロンビア大学において開催された研究集会「アジアの仏教聖地」に参加して、「Gunavarman and Some of the Earliest Examples of Oridination platforms (jietan) in China"(求那跋摩と中国における戒壇の最初期の諸例)と題する発表を行ない、五世紀仏教史とりわけ戒律史に新たな視点を与えた。また「真諦三蔵の著作の特徴-中印文化交渉の例として」という研究もまとめ、これによって五〜六世紀の南朝仏教思想史の新展開について考察を行なった。また仏教の実践形態として、戒律の遵守と共に最も重要な項目である瞑想についても考察を行ない、その観点から「瞑想の実践における分別知の意義」と題する論考をまとめた。
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