中国六朝仏教史において、南斉時代は、その存続期間の短さに反して、きわめて重要な時代である。それは東晋-劉宋における仏教の本格的研究の導入開始と、南朝仏教の頂点としての梁代という二つの時代のはざまにあって、儀礼や教理解釈、仏教書の編纂等のさまざまな要素が相互に連関しながら形を整えはじめる時代であった。梁代における仏教文化の開花は、すでに南斉時代によって準備された部分が少なくない。ところが南斉仏教については未だ十分な研究がなされてこなかった。本研究では、このような南斉仏教の基礎研究として、南斉を代表する在家仏教徒である蕭子良によって編纂された『浄住子』を研究主題とし、それかかわる様々な事象を多角的に検討した。以下に研究をおこなった具体的な論点をあげる。『浄住子』は本来二十巻から成る大部の書であったが現存せず、その内容を一巻分に要約した唐の道宣『統略浄住子浄行法門』のみが『広弘明集』巻27に収められ、現在に伝えられている。敦煌写本は一点のみ関連文献が知られている。本研究では、いままで翻訳がなされなかった『統略浄住子浄行法門』について、その校訂テキスト、および、和訳と注釈を作成し、さらに、内容分析を加えた。校訂テキストを作成するにあたっては高麗版初雕本など大正大蔵経には含まれない重要版本も参照した上で校勘を行なった。内容分析については、第1章、『浄住子』の概略(細目:はじめに、浄住子序について、各門の名称をめぐって、南斉時代の佛書編纂について)、第2章、『釈門自鏡録』『法苑珠林』『慈悲道場懺法』との関係(細目:三書の概略、『法苑珠林』が先人の著作を転用する例、平行句一覧)、第3章、蕭子良本と道宣本の関係(細目:スタイン721Vについて、道宣による改編と加筆、蕭子良原本についての仮説)、第4章、蕭子良の所依経典、第5章、版本問題餘録、の5章にわけて詳細な分析を加えた。
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