今年度の研究実績として、まず、10月に龍谷大学で開催された日本南アジア学会第18回全国大会の小パネル「縁起解釈の再評価」において、「初期経典の視点から」という報告を行い、研究成果の一部を発表した。その要旨は以下の如くである。南方上座部パーリ聖典の律蔵の冒頭にブッダが考察したものとして十二支縁起が記され、これがブッダの悟りの内容を示すものと解釈されることが多かった。その文章の中に、従来は漢訳経典をはじめ現代の研究者によっても「はじめてさとった」と訳されてきた言葉がある。この言葉のために、十二支縁起がブッダのさとりの内容と解釈され、他方では、ブッダは世界で初めてさとったとか、ブッダは何度もさとりを開きこれが最初のさとりだとか、様々に解釈されてきた。しかし、その「はじめてさとった」という原語の用例や註釈を検討すると、この原語は「はじめてさとった」という意味ではなく、「さとったばかりで」という意味であることが判明する。このことから、この律蔵冒頭の十二支縁起は、ブッダのさとりの内容ではなく、ブッダがさとりを開いたあとで考察した内容であることが確定される。また、縁起の「縁」の原語のpratyayaという語についても、それが何故「縁」という意味を担うようになるのかを、ヴェーダ文献やジャイナ教文献をも含めて用例の検討を行った。その他の研究実績として、1月から2月にかけて、大学院生をドイツのゲッティンゲン大学に派遣し、そこに保管されていてサンスクリット写本の鮮明な写真版を用いて刊本の読みの再検討を実施した。
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