研究概要 |
初期仏教研究の主要資料は、東南アジアに伝播した南方上座部の伝えたパーリ語経典であるが、漢訳の阿含経典が分量的にこの次に位置する。諸部派の初期仏教文献を比較する対照表としては、赤沼智善『漢巴四部四阿含互照録』が70年以上も前に出版されている。しかし、この『漢巴四部四阿含互照録』はその名前からして漢訳阿含経典とパーリ語経典の対応が主体となっているため、特にチベット語資料などに遺漏が目立つ上に、当然のことながら以後に公表された諸インド語文献(主にサンスクリット断片)が収録されていない。したがって、『漢巴四部四阿含互照録』は大幅な増広、むしろ根本的に作成し直す必要がある。そこで、本研究では、科学研究費の交付期限内で、この大部な『漢巴四部四阿含互照録』のできるだけ多くの部分を根本的に作成し直すことを目的とした。かくて、従前の内外の研究成果と新たな知見に基づいて成果報告書として提出したものが、『漢巴四部四阿含互照録』の大きな部分を占めていた求那跋陀羅訳『雑阿含経』(『大正新脩大藏經』第2巻,pp.1ff.)の全経の対応表である。ここには『雑阿含経』の各経ごとに対応する『別訳雑阿含経』、パーリ語仏典、サンスクリット語文献、さらにその他としてサンスクリット語以外の諸インド語文献、漢訳仏典、チベット訳仏典の対応箇所を記している。『漢巴四部四阿含互照録』に追加した主な対応は以下の通りである。まずパーリ語仏典では、註釈文献の対応箇所を追加した。サンスクリット語文献では、ヒンドゥー教文献の対応やインド、ネパール、パキスタン、中央アジアなどから続々と発見されている仏教関係の写本や刻文資料の対応箇所を収録している。サンスクリット語以外の諸インド語文献としては、仏教文献以外のジャイナ教の対応も収めた。漢訳仏典やチベツト訳仏典では、後代のアビダルマ文献や瑜伽行学派の文献で引用や解説される対応箇所を追加した。
|