研究概要 |
本年度は,部派仏教と大乗の関連性を解明するために,二方向からの研究を行った。ひとつは,アランヤすなわちインドの森林地帯に居住していた仏教修行者の実態の解明である。最近,学界では,アランヤに居住していた修行者は正式な比丘ではなく,在家集団であって,そのアランヤ修行者こそが大乗仏教の創始者であったという説が流布していたが,今回の研究によって,この説の論理的誤りを指摘し,アランヤ居住の修行者も正式な比丘であったことを論証した。これにより,大乗仏教は,やはり先行する部派仏教世界から直接生じたという説が確認された。もうひとつの研究は,部派仏教と大乗仏教の接点となる重要資料『婆沙論』の資料的研究である。この書は,その量の膨大さと内容の複雑さにより,本格的研究がほとんど進展していなかった。中でも,三本存在する異本の対応関係が全く解明されていないことが,最大の阻害要因であった。今回,その三本の異本を詳細に対照し,約三百箇所にわたるモザイク状の対応関係をすべて表示することができた。これにより,『婆沙論』研究は格段に進展するものと期待している。
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