初年度は、資料発掘を中心としながら、理論面での基礎固めを行うべく努めた。宗教言説と呼ぶべきものは、学問的なテクストのみではなく、実に多様な形態をもっている。近代の宗教言説の総体を網羅することは言うまでもなく困難であるが、本研究の下位主題である「宗教経験」論および「未来の宗教」論に関わるテクスト群については、海外共同研究者であるJurgen Mohn氏の助力をもあおぎ、可能な限り多様なアクストを収集すべく努めた。 一方研究面では、宗教概念と宗教言説の成立のあとづけにまず取り組んだ。論考「『宗教』の生誕--近代宗教概念の生成と呪縛」では、古典期以来存在するreligionという語彙が、さまざまな変転を経て近世に浮上し、それ以降の近代宗教言説(理性宗教論、宗教批判論、神秘主義論、宗教の歴史論)による概念規定をうけ、今日の宗教概念と宗教言説の基本的パターンが成立したことを論じた。また「『宗教』概念と『宗教言説』の現在」では、現代におけや宗教概念と宗教言説に関わる議論を、論理的側面と言説実践としての側面から詳しく検討し、現在宗教を語ることにどのような可能性の幅があるかを検討した。また論文「流浪する宗教性--ジンメル宗教論とドイツ近代の宗教状況」では、19世紀転換期において宗教概念の彫琢に決定的な役割を果たした社会学者、G・ジンメルの未来宗教論を論じた。学会発表「新宗教と知識人--初期ドイツ宗教社会学に見る」ではジンメルの同時代宗教論を扱い、それを通じて、宗教言説における近代知識人の役割を検討した。
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