研究概要 |
本研究は、セバスティアン・フランク(Sebastian Franck,1499-1542)における終末論と神秘主義との関係を分析することを通して、間接的にプロテスタント的スピリチュアリスムスの思想構造を解明することを意図していた。研究に際しては、フランクの二大主著である『年代記、時代の書、ならびに歴史聖書』と『パラドクサ』の原典テクストを比較対照しつつ、終末論に関する彼の態度変化を明らかにしようと努めた。 上記の研究目的を遂行するために、夏休みを利用してドイツを訪れ、ミュンヘン大学を拠点としながら、ドナウヴェルト、アウクスブルク、ウルム、ストラスブール、バーゼルなどの、フランクにゆかりの深い都市で幾つかの現地調査を実施した。それと同時に、終末論と神秘主義の相互関係という視点から、フランクのスピリチュアリスムス思想について原典研究を行なった。そこから明らかになったことは、フランクのスピリチュアリスムスは、ストア主義的汎神論やネオ・プラトニズム的二元論に親近的な概念を用いていても、基本的には聖書的・キリスト教的な救済史的・終末観的な歴史観に基づいた、キリスト教神秘主義の系譜に属するものである、ということである。彼の思想はエックハルトやタウラーなどのドイツ神秘主義の系譜に深く棹さしているが、ルター的な福音主義の影響下で思想形成された点が、カトリック的性格が濃厚なドイツ神秘主義との一番の相違であるといえよう。 研究成果の一端は、「セバスティアン・フランクにおける終末論と神秘主義」という学術論文に纏め上げ、北海学園大学『人文論集』第30号に発表した。今後に残された課題としては、神秘主義的思想と歴史の中間時性ならびに終末論的歴史観との間の思想的脈絡を、テクストに即して更に掘り下げて分析し、フランクのスピリチュアリスムスの思想構造をこの角度から解明することである。
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