15年度は、アッシリアの宗教的状況が周辺世界のそれとどのように異なっているのかを明らかにすることを目的とした。これまで、アッシリアの宗教文化は南方のバビロニアの影響を強く受けていることが強調されてきたが、バビロニアには見られない西方の文化も取り入れられたと考えられる。 具体例としてアッシリア王アッシュルナツィルパル2世の王座の間レリーフ図像を取り上げて考察の対象とした。これはアッシュルナツィルパル2世が前9世紀にカルフに建設した宮殿王座の間を飾る中心的な石板レリーフである。この図像を構成している有翼日輪、聖樹、礼拝する王(左右一対)、精霊(左右一対)のそれぞれの意味だけでなく、像全体の意味も不明であった。 それぞれの要素について多くの並行例との比較研究により、以下のような結論を導き出すことができた。この図像の基本的要素は「有翼日輪を崇拝する王」である。有翼日輪は従来神アッシュルを表すとされたが、それは誤りであり、アッシリアでは太陽神シャマシュのシンボルである。しかしこのように主要な礼拝対象となるのは単なる太陽神ではない。それはヒッタイト大王の印章図像の影響を受けたと推定できるものであり、王権を庇護するような権威を示す太陽としての有翼日輪である。
|