16年度の実績として第1に、論文「古代メソポタミアにおける執り成しの女神」にまとめたように、女神の働きのうち、典型的なものの一つである「執り成し」について研究を進めた。この働きは特に配偶女神がその配偶男神に対して行うことが期待されるものである。祈り(祝福)のなかで、配偶女神によびかけて執り成しを願う文言の例、また呪いのなかでは執り成しをせず、反対に悪いことを言うように願う文言の例を集めて検討した。その結果、それぞれ定式化した文言がメソポタミアに1200年ほどにわたって伝承されていることが確認された。それらは前2千年紀にバビロニア(南メソポタミア)で定式化され、前1千年紀にはアッシリアにも受け継がれてたことが明らかになった。 第2には、メソポタミアにおいて、生を与えるものと死を与えるものがどのように考えられていたかについて、神話・叙事詩だけでなく、王碑文、書簡、医学文書などから、すべての関連箇所を検討した。その結果、バビロニアでもアッシリアでも、生と死を与えるとされるものは薬学の背景を持つ「命の草」や「死の草」、あるいはそれらに類するものであることがわかった。その結果と背景についての考察を『生と死の神話』(リトン刊2004年)のなかに発表した。
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