1.概観・・・メソポタミア北部の「アッシリア」を南部の「バビロニア」と対比させながら、アッシリア宗教の「変遷と一貫性」という二つの特質をとらえることを目指した。アッシリアは古代オリエント世界の真ん中にあって紀元前2000年ころから紀元前612年まで、およそ1400年も続いたという特異性をもつ。それはアッシリア宗教の「一貫性」のゆえに可能になったのであり、また1400年続いたことが「一貫性」と決定的なものにしたといえる。他方、アッシリアは常にバビロニアをはじめとする周辺世界の文化を独自の仕方で取り入れ、それがアッシリア宗教「変遷」の原動力となった。 2.具体例として言葉(文書史料)と形(図像史料)の例を取り上げた。 (1)言葉の例として、バビロニアに古くから伝わる定式的な呪いの言葉がアッシリアへと伝わりどのような変遷をとげたかを辿る。またアッシリアにはバビロニアには見られないタイプの呪いの言葉があり、それらがアッシリアの西方の文書(ヒッタイト語、ヘブライ語など)に並行例を持つことを示す。それはアッシリアが、異民族間においてより普遍的な契約や誓約を成立させるために異文化を取り入れたことを指摘する。 (2)形の例としては、アッシリアでは太陽神シャマシュのシンボルが紀元前2千年紀後半以降「有翼日輪」とされた。これはバビロニアには決して見られないものであり、アッシリアが独自に西方文化、とくにヒッタイトの影響を受けた文化を取り入れた結果とみる。
|