本研究は、1920年代から1960年代にかけてドイツ・アカデミズムの一角をになった精神諸科学の思想と行動を解明することを目的とするものである。精神諸科学は、シュライエルマッハーに端を発し、ディルタイを経て広まった研究方法であり、《歴史》ないし《文化》を対象とし、方法として《追体験》を提唱した。その影響は、教育学研究分野において最も顕著に顕れ、1930年代には大学における教育学のポストを席巻する。しかし、方法論的特質のゆえに、内的世界ないし主観的世界の記述に傾斜し、現実世界との接合が困難であった。 こうした仮説の下に、今年度の研究においては、ワイマール時代から戦後にかけての精神学的教育学、とくにナチズム期における精神科学的教育学の基礎構造を解明するため、二つの宗教的人間形成論との比較検討を行った。一つは、ナチズムに対する態度決定において精神科学的教育学とは対極の立場にあった告白教会左派、弁証法神学における人間形成論との比較である。シュプランガーの人間形成論が所与の《文化》ないし《歴史》を基礎として構築されるのに対し、ディートリヒ・ボンヘッファー、カール・バルトの弁証法神学に見られる人間形成論は、《神の言葉》に集中し、そこから《文化》や《歴史》を相対化、その上に人間形成論の可能性を示唆している。もう一つは、同時代の宗教教育学との比較である。ゲッチンゲン大学において精神科学的教育学者であり、ナチズム期に《軍隊教育学》を提唱したエーリヒ・ヴェーニガーと同僚であった宗教教育学者ヘルムート・キッテルは、ヴェーニガーと同様、《軍隊的教育学》を構築した。 なお、戦後における精神科学的教育学の動向、とりわけナチズム期に対する反省については、十分解明することができなかったので、今後の課題としたい。
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