本年度は、とくに図像アトラス「ムネモシュネ」の分析を中心として、アビ・ヴァールブルク研究を深める作業と1920〜30年代における形態学的思考の基礎的調査をおこなった。ヴァールブルクの遺したメモや草稿などの基礎資料に加えて、1920〜30年代における形態学的思考に関わる著作、その他、関連する思想史関連の基本的な文献、雑誌論文などをもとにした具体的な活動内容は次の通り。 1.未完に終わったアビ・ヴァールブルクの図像アトラス「ムネモシュネ」に集められた千点近い図像とその配置関係を、図像成立の時代・地域・テーマ・形態的類似・ヴァールブルクの個人史や同時代的出来事との関連といった視点から重層的に解析し、そこに形成されているイメージ記憶のネットワーク構造を分析した。扱う図像の数が膨大であることと、図像間の関連を探る作業がヴァールブルクのメモなどに基づく必要があるため、まだ限られたパネルについてのみであるが、そこに隠された多次元的なネットワーク構造が明らかになりつつある。 2.「原型」概念と図像学との関係を中心とした、ヴァールブルクに対するゲーテ自然学の影響を、資料に即して実証的に調査し、友人ヨレスの思想をはじめとする同時代の形態学的思考との関連にも目を配りながら、ヴァールブルクにおける「原型」としての「イメージ」の構造を考察した。その過程で、ボッティチェリの絵画における「細部」表現への着目を媒介として、ヴァールブルクと矢代幸雄の分析手法とを比較検討し、美術史学の方法論的革新の同時代性があぶり出されることになった。
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