本年度は資料の蒐集とデータベース化をさらに続け、次のような成果を得た。 1.未完に終わったアビ・ヴァールブルクの図像アトラス「ムネモシュネ」に集められた千点近い図像とその配置関係を、図像成立の時代・地域・テーマ・形態的類似・ヴァールブルクの個人史や同時代的出来事との関連といった視点から重層的に解析し、そこに形成されているイメージ記憶のネットワーク構造を分析する作業をさらに展開して、多次元的なネットワーク構造を明らかにした。 2.1920〜30年代の文化科学諸分野におけるゲーテ的形態学の影響を、ヨレス、プロップ、ベンヤミン、クラーゲス、シュペングラーやユングなどについて幅広く検証し、ヴァールブルクをここに含めたうえで、それぞれの学問的方法論の差異を明確化した。 3.とくにヴァールブルクの「イメージ」をめぐる形態学的分析が、単に美術史のヴァールブルク学派(ないし図像学派)のみならず、後世の歴史研究や文化研究全般において、どのように継承され展開されたかを、レヴィ=ストロースの構造主義やカルロ・ギンズブルグの歴史分析(ミクロストリア)などをとりあげて検証し、文化科学における形態学的方法論の将来的可能性を検討した。さらにそれを、同時代のメディア環境との関係において考察し、写真や映像が形態学的方法論に及ぼした影響を分析したうえで、現代におけるゴダールの『映画史』をはじめとする映像作品に、同種の方法の活用を見出した。
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