本研究は、中世末期から近代初期にかけて、宗教・思想・文学・芸術など、人文科学の様々な分野で関心を引き起こし、活発な議論・論争の対象となった結婚および離婚の問題に焦点を当て、それを一つには哲学・思想などの原理的な側面から、もう一つにはそのような哲学・思想を生み出した社会的・文化的背景を史料に即した具体的な側面から考察することを目的とした。またその結婚と離婚について以上の状況を、世俗と宗教の両面から立証しようとした。 前野が行った研究では主として結婚に焦点を当て、中世から近世にかけての結婚に関する社会史・文化史の史料を教会法・都市法とも関連させて分析し、中世においてはそもそも稀薄であった「結婚」の人生における位置づけが、中世末から近世にかけてその重要性を増し、それが結婚に対する社会モラルの監視強化と並行する現象であること、その過程で結婚当事者の相互関係に重心を置く結婚観が定着していくこと、さらに新教に改宗した北ヨーロッパ地域においては、後に近代市民社会の結婚形式として定着する「恋愛結婚」の萌芽が見られるようになることを明らかにした。 これに対して鈴木の研究はミルトンが、個人の内心のあり方を神および配偶者との関係について最重要課題を、中世概念である「調和」から、私個人としての実存的感情に忠実である「誠実さ」にシフトさせた点に、その画期性があることをえぐりだした。さらにこの研究は、この観念の移動を、結婚・離婚を認証する社会制度システム論という布置で捉え直した。宗教の境位においては、聖書釈義の決定権、諸釈義の許容度のパラメーターという観点から議論した。また世俗の境位においては、結婚・離婚を法律上(デ・ユレ)認証する制度の曖昧さ、事実上(デ・ファクトー)の結婚・離婚を法律上(デ・ユレ)のそれに優越させる社会不安、ゲマンイシャフトを崩すゲゼルシャフトへの橋頭堡としてゲノッセンシャフトという観点から考察した。
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