研究概要 |
本年は以下の2点が具体的な研究成果である。 1,ナショナリズムの問題を、現在の「アジア」をめぐる議論に引きつけながら考察した。具体的には、子安宣邦著『アジアはどう語られてきたか』(藤原書店)という日本からの議論を踏まえて、アジア論がナショナリズムを越える問題として考察されるべきことを、台湾の雑誌上(中国語に翻訳)で発表した。また、中国での議論、孫歌氏の『アジアを語ることのジレンマ』(岩波書店)での問題提起を引き受けながら、紀要に「アジアの語りはナショナリズムを越えられるか」と題して、南京の虐殺をめぐる歴史の共有の問題等を考察し、研究成果をまとめた。 2,戦後の日本文化論的言説の持つナショナルな語りの問題について考察した。特に「健全なナショナリズム」の問題と文化相対主義の問題を相関的に問題化することの必要性を論じた。その際、戦後を支配するの言説のあり方の問題として、丸山真男のナショナリズムへの立場を問題化した。文化研究がナショナリズムと親和的な関係にあり、そのことへの批判的な視座が必要であることを、それが孕む困難性を含めて明らかにしてきた。 後半は、靖国問題を中心に先行研究や資料を集めた。今後は靖国が、なぜアジアからの関心を呼び、またどのようにアジアにかかわるものであるのかを、日本ナショナリズムの行方とともに、考察していく予定である。
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