研究概要 |
今年度は、研究の最終年度として、当初の予定通り、靖国問題の考察を通じて、戦後論としての日本ナショナリズム論をまとめることに専念した。 1,ナショナリズムをどう捉えるかという点に関わって、理論的な考察を行った。特にエドワード・サイードの『文化と帝国主義』やベネディクト・アンダー・ソンの『想像の共同体』をもとに、ナショナリズムの問題性をいかに客観性を持って論じることが可能かを検討してきた。こうしたことを通じて「靖国問題」に見え隠れする「普通の国」へのナショナルな欲望への批判的アプローチを可能にした。 2,理論的な検討を踏まえて、戦後を代表する「健全なナショナリズム」の担い手として、丸山真男の思想の検討を行った。丸山真男のナショナリズム論が、客観的にではなく、むしろナショナリストとしてなされていることを指摘し、日本へと閉じていく視線の問題を乗り越えなければ、現在の帝国日本と対峙することはできないことを明らかにした。 3,「靖国問題」を考えることとは、戦後日本の在り方を再審にかけることであり、そのためには健全なナショナリズムと排外的なナショナリズムを区別するのではなく、ナショナリズムの問題として、その根元に届く批判的な視座が必要であることを明らかにした。
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