1、平成15年度は、批判的社会理論(ハーバーマス、ホネット等)と文化的多元主義の理論(キムリッカ、フレイザー等)における基本文献を購入し、その読解、分析、整理を行った。そしてその際考察したものを部分的に論文、共編著として発表した。文献を読む会として「批判的社会理論研究会」を組織し、15年8月、16年1月、3月に研究例会を開催し、ハーバーマスのEinbeziehung des Anderenを検討し、ハーバーマスの『事実性と妥当性』で示された社会理論がどのように展開されているかを議論した。2、15年6月に出版した共編著『批判的社会理論の現在』は、90年以降のハーバーマス、ホネットの理論の展開を分析紹介し、他の理論的諸潮流との論争を検討したものである。「序文」では共編者永井とともに全体状況を紹介した。執筆した論文「第二章、ハーバーマスにおける権利体系の再構成」では、『事実性と妥当性』におけるハーバーマスの権利論の討議理論的基礎を考察した。「第八章、批判的祉会理論の承認論的展開-アクセル・ホネットへのインタヴュー-」では、ホネットに直接インタヴューし、その理論の成り立ち、論争状況について討議している。そこでは特に、フレイザーとの「承認をめぐる闘争」についての論争を取り上げた。このインタヴューを英訳して提出し、来年出版予定のConversations with Honnethに受理された。言語人文学会で報告しその内容に手を加えて論文として発表した「ハーバーマスのコミュニケーション的行為論の基本構造-討議理論における形式語用論的アプローチ-」は、ハーバーマスの討議理論の基盤を『コミュニケーション的行為の理論』にまで遡及して解明しようとしたものである。論文「多文化主義における政治文化の問題-キムリッカとハーバーマス-」は、ハーバーマスとキムリッカの多文化主義へのアプローチの違いをその政治文化の捉え方の違いから論じた。
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