初年度の研究目標として掲げた、資料の収集と文献の取捨選択、テクストの抽出に重点を置いて研究を進めた。 1.資料の収集 ユダヤ・キリスト教の文献としてヘブライ語聖書、キリスト教聖書、ユダヤ教の聖書注解、タルムード、ミシュナなどのユダヤ教ラビによって記されたラビ文献、ならびに中世ドイツの神秘思想、近代の先駆けとなったキリスト教神秘家の著作(十字架のヨハネ、イグナティウス・デ・ロヨラなど)の文献の収集を進めた。禅仏教の文献としては、華厳経と般若心経、公案集、特に無門関と碧巌録、道元の正法眼蔵、日蓮の著作などの邦語原典集成・著作集、英・独。仏語訳を収集した。ドイツ・ケルン大学古典文献学研究所、バイエルン州立図書館においても資料の収集にあたった。 2.文献・資料の選択・抽出 ヘブライ語聖書、ユダヤ教文献(タルムード、ミドラッシュ)、キリスト教神秘思想の文献のなかから、宗教体験、神秘体験に源泉をもつと見られる叙述、テクストを抽出する。旧約聖書の出エジプト記に見られるシナイ山での神の顕現と十戒の授与についてのテクストを中心に取り上げ、言葉を超えたものとしての神秘思想が表われているテクストに注目し、神秘体験が述べられているテクストの構成、動詞の態、頻出する比喩、隠喩ならびにイメージ、等に注目して、テクストの源流をなす神秘思想の内実を明らかにした。出エジプト記のテクストの主題と源泉は、禅仏教の般若心経、碧巌録のテキストと表記と意味内容が類似していることがわかった。聖書のテクストと禅仏教の古典文献の比較研究は、その成果の第一弾として論文にまとめて発表した。この論文については、アメリカ、ドイツの研究者から反響がよせられおり、今後の研究の進展につなげていきたい。
|