今年度は、ユダヤ・キリスト教の霊性の文献と禅仏教の古典文献(特に、日蓮、道元のもの)のテクスト解釈、ならびに、両者に類似するテーマを抽出し、対比・比較を具体的に進展させた。ユダヤ教の古典文献を専門とする海外共同研究者のラインハルト・ノイデッカーは、ユダヤ教における神の概念、特に神の実在、苦しみの問題を取り上げた。中世キリスト教神秘思想を専門とする須沢かおり、ユエルグ・マウツは、ヨーロッパ中世末期(14世紀)における霊性を取り上げた。政治的、宗教的な不安という実存的な動機から死、苦しみ、受難にアクセントをおく霊性(ゾイゼ、タウラー・、ルドルフ・フォン。ザクセン、エックハルト)が開花した点に注目し、その霊性のルーツがユダヤ教の神の概念とどのように結びつくのかを探り、綿密な文献学的比較研究をおこなった。さらに、神の概念、苦しみ、神の本質(神性)についての理解は禅仏教における無の思想、日本の鎌倉仏教が台頭したモチーフに接点があることをつきとめ、この点についても類似するテクストを抽出し、比較検討した。これらの研究成果は論文と、ドイツにおける研究討議・発表によってさらに進展をみた。
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