研究課題
基盤研究(C)
ユダヤ・キリスト教の霊性の古典的テキストを東洋の宗教である禅仏教の古典文献と比較し、そのテクストの源泉となる宗教体験がどのように類似し、交わるか、その接点を探った。特にユダヤ教のヘブライ聖書、キリスト教の旧約聖書のなかから神についての理解とその啓示をあらわすテキストを詳しく分析・解釈し、禅仏教の古典(道元、日蓮、臨済禅の公案集)と比較検討した。聖書に見られる定義の困難な神秘的意味をもつ句の背景には一神教独自の神体験、宗教体験があり、神についての表現、神体験を表わす記述の構成、動詞の態、頻出する隠喩ならびにイメージにおいては、二元的な分別認識の構造を打破するという点、あるいは時間性と歴史性の理解において禅の古典文献(道元、日蓮、臨済禅の公集)と類似するものがあることがわかった。また、神との霊的な交わりと宗教体験を深めたキリスト教神秘家(ゾイゼ、タウラー、ルドルフ・フォン・ザクセン、十字架のヨハネ、アピラのテレサ)の作品においても宗教的な言語表現の特徴が客観的で論理的な言語を越える次元のものを探求している点に注目し、ヨーロッパ中世から近代にかけてのキリスト教霊性の紺的にある宗教意識が東洋の禅の霊性とどのようなところで交わるか、を検討した。神の超越性という点はユダヤ・キリスト教の特徴をなすが、その超越性は日常的なもののなかに内在するという点においては禅的な理解との接点が見られた。この研究により、定式化された教義、理性主義的な神学、体系化しえない霊性というユダヤ・キリスト教の霊性の脈々とした源流が、まったく伝統を異にする禅仏教の思想と接点をもちうることを示すことができた。これらの研究成果は論文と書物にまとめ、発表した。
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