初年度は、海外調査によって文献等の基礎資料の収集、およびレンブラントをはじめとする17世紀の画家の財産目録の概要を具体的に明らかにすることができた。 つとに指摘されているように、かれのコレクションには社会的なステイタスを宣明するという側面もあった。それについてわたレは、《ダナエ》(エルミタージュ美術館)を破産時(1656年)まで手元に置かれていた事実にもとづき明らかにした。コレクションの意義はそれだけではもちろんない。そこには新しい世界へと拡大していく17世紀オランダの世界観を映す鏡という性格もあった。レンブラントは、中国磁器やイスラムのミニアチュールばかりでなく、貝殻などの自然物まで蒐集し、おのれの芸術制作に生かしている。時代の眼をそなえた芸術家の姿がそこから立ちあがってくる。こうした意味でレンブラントは、超越的なものを呼びこもうとしたルネサンスから、関係性を基盤におく近代という時代の狭間を生きる芸術家の一典型であることが浮き彫りになってきた。 アムステルダムには画家以外にもレイスト兄弟やシックスをはじめとする多くのコレクターが存在した。彼らのコレクションの概要についても、もう少し突っ込んだ形でそのインパクトを見定める必要がある。画家とコレクターとのあいだの相互交流を明らかにすることが、コレクションの背景にある見方を剔抉する契機となる。 次年度においては、オランダ東インド会杜や西インド会社の活動がオランダの画家たちに具体的にどのようなかかわりあいをもったのか、具体的に探っていきたい。そうすることで、当時の歴史的な風景がよりいっそう鮮明なものとなる。
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