17世紀初頭、スペインの軛を断ち切って世界の海に雄飛したオランダ。その騎手として他の諸都市をリードしたのがアムステルダムであった。この活気ある都市で形成されたレンブラントの財産目録の特徴を一言で評するなら、自己言及的だということだ。そこにはかれが執着した事物が蒐集されていた。ラファエッロ、ティツィアーノなどイタリア・ルネサンスの巨匠たちの作品の版画やリューカス・ファン・レイデンの版画、北方美術の特質をなす風景版画、さらには東洋のさまざまなミニアチュールならびに中国磁器などじつに多彩である。 とくに東洋の事物に対するレンブラントの蒐集品からかの地に対する憧憬の念を抱いていたことが読み取れる。東洋を「他者」としてとらえていたのである。そうすることによって、オランダのアイデンティティの形成にかれも一役買ったのである。17世紀ヨーロッパは絶対王政へ移行する時代だ。そうした潮流からするとレヘント、貴族、農民からなるオランダ社会は旧体制に映る。しかし逆に宗教の寛容を打ち出し、海洋交易とそれを支える市場を開拓することで一大商業国家へと変身を遂げていった。15世紀末の大航海以来、交易によってもたらされる文物は新知識の源である。この進歩の思想に支えられる形で、17世紀オランダはスペインはもとよりフランスやイギリスに旧国家というレッテルを貼り、時代遅れのイメージをつくりだしことに成功した。レンブラントのコレクションもこうした時代の雰囲気を共有していたのである。
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