研究概要 |
今年度の研究の中心は,フランス国立美術研究所図書館等における資料調査であった。この調査を通じて,ふたつの重要な進展があった。第1に,本研究テーマにとってきわめて興味深い存在である,オクダヴ・タッサエール(1800-1874)の生涯と作品について,原資料に基づく知見を得たことである。現在言及されることの少ないこの画家は,興味深いアトリエ図像を多く遺している。今回,上記図書館及びルーヴル美術館資料部において資料を参照した結果,彼のアトリエ図は3種に分類されることが分かった。第1に,アトリエの主たる画家と,その理解者とが一緒に室内にいるというタイプ。第2に,アトリエの女性画家を描いたもの。そして第3に,きわめて悲惨な環境で吟味する芸術家を描いたもの。これら3種のアトリエ図が一人の画家によって遺されている点は,近代美術史の上で特異であり,そこには当時の芸術家の一部が鋭く意識していたであろう,芸術と社会との複雑な関係性が浮き彫りになっていると考えられる。また1886年刊行の伝記を始め,同時代の諸資料を参照した結果,タッサエール自身の生もまた,栄光と忘却,自殺による終焉といった画中の芸術家に比すべき転変を経ている。そうした芸術家的人生を語る様式とともに,考察の資料として今後分析していきたい。 今ひとつの発見は,上記図書館に収蔵されていた,19世紀末の画家たちのアトリエを撮影した写真アルバムの発見である。これはおそらく、最近世に出た写真を貼付けたもので,裏に撮影された画家の氏名が書き込まれている。撮影者,撮影時期については,書き込み等は全くない。この資料はこれまで紹介されたことがないと思われるが,きわめて興味深い。大半は,当時名をなし大成した画家たち(例えばブグロー)のアトリエ写真であるが,数多くの資料に埋められたアトリエの様子は印象派などのアトリエ図とは鮮やかな対比をなしており、今後の考察に資するものである。
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