本研究では、19世紀フランスの文化が生み出した「芸術制作」の表象を、視覚表象と言語表象に探り、それらを分析して系列づけることを目指した。その結果、以下のような分析を行なうことができた。 まず、社会との関連で捉えられた芸術制作の表象がある。ルネサンスまでの前近代において制作は、いまだ職人的制作の一分野と位置づけられており、それをアトリエの空間表象や人物表象に読み取ることができるが、同様の表象形式が19世紀においても持続するとともに、いわば社会との包摂関係が逆転して、アトリエ内の小社会の存在が強調されるにいたったことが分かった。 次に、そうした社会との親和的関係性が否定的に意識され、むしろ社会からの孤立と疎外を前景化した表象も成立する。早い段階では、それは「猿の芸術家」という寓意的形式を取っていたが、19世紀に入るとそれは深刻さの度合いを深め、いっそうリアルに芸術家の疎外状況を表象することになる。それはまた、制作を内密で外に現れない精神的行為として描くことにもつながるが、表象としては秘儀的な形式を取ったり、もっと穏やかな内面的自由の形式を取ることもある。 第3に、制作を取り巻き支える人的・物質的装置の描写が重要性を得る系列がある。これは、愛好家や批評家との協同性を強調したり、作品制作に必要な資料類の堆積を強調したりする表象系列である。これらをとおして、芸術制作は再度、規模の小さな社会的コンテクストに位置づけられるが、そのあり方は一般の社会からは隔絶されている。 文学における表象は、これら視覚表象の系列に平行し、また融合させているものと思われる。ノディエにおいては、制作は密儀的要素を強調しており、バルザックではそれが極限まで追究されるとともに、必然的に生じる社会的疎外状況も語られ、また批評の役割も意識されている。最後の点についてはゾラにも受け継がれ、また制作を取り巻く小社会が作家に及ぼす人格的影響も掘り下げられていると見られる。 今後さらに資料的探索を充実させ、この大きな見取り図をさらに精緻なものとする必要がある。
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