平成16年度は、エンツォ・カルリの『イタリアの木彫』(1960年)をはじめ、新たに収集した彩色木彫に関する、展覧会カタログを含む基本文献と作品写真をもとに、15世紀シエナの彩色木彫と、関連する絵画作品の基本データの集成をおこなった。 現地調査では、フィレンツェのドイツ美術史研究所、シエナ美術品総監督局およびシエナ大学において、木彫関連作品の文献と写真資料の調査を実施、またフィレンツェのバルジェッロ国立美術館などで15世紀シエナの木彫そして関連作品の精査をなした。シエナ美術品総監督局研究官アレッサンドロ・バニョーリ氏、シエナ大学助教授アレッサンドロ・アンジェリー二氏、ロベルト・バルタリーニ氏と、それぞれシエナの彩色木彫全般について、さらに、ヤコポ・デッラ・クエルチャの作品か、助手のフランチェスコ・ディ・ヴァルダンブリーノの作品か議論がある《サン・カッシャーノの騎士》、そして、画家としても活動したネロッチョ・デイ・ランディの《大天使ガブリエル》など、個々の彩色木彫作品について意見交換をおこなった。 シエナが位置する中部イタリアのトスカーナ地方の都市、ピサ、ルッカなどでは、シエナ美術との密接な関連をしめす、すぐれた木彫作品が制作されており、展覧会の開催など、この分野での研究が近年進捗している。これらの成果も視野にいれて、ヤコポ・デッラ・クエルチャとフランチェスコ・ディ・ヴァルダンブリーノの芸術形成について、ドメニコ・ディ・ニッコロ・デイ・コーリとイル・ヴェキエッタの彩色木彫について、そして画家、彫刻家、建築家としても活躍したフランチェスコ・ディ・ジョルジョと共同制作をおこなった時期のネロッチョの木彫そして絵画作品の特徴を検討し、15世紀シエナの彩色木彫の展開、絵画表現との関係、そして社会的な受容について考察した報告書を作成した。
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