本研究課題に関わる平成15年度における実施事項は、(1)必要な機器類の購入、(2)平成15年9月〜10月の海外調査(主として大英図書館)、(3)関連する16世紀俗語印刷本のマイクロフィルムの入手、(4)関連する16世紀の版画素描作品の写真購入、(5)関連文献の収集、(6)関連する画像のデジタル登録、(7)16世紀絵画論のキーワードのデータベース化、であった。本研究の基本的な手続きと目標は、ティントレットの絵画作品と、同時代俗語出版物および同時代の版画イメージ(書籍挿絵を含む)との、これまで見過ごされてきた関係性を明らかにすることである。平成15年度においては、16世紀前半期における主にヴェネツィアの版元から刊行された俗語刊行物のうち、同画家の作品と関連の深いものを収集し、その内容の検討を開始した。具体的には、詩人・批評家のピエトロ・アレティーノによる書簡類と宗教著作、ロドヴィーコ・ドルチェの絵画論、同時代俗語版聖書、喜劇、騎士道ロマンス等である。具体的成果としては、ティントレットに多大な影響を与えたローマ派の画家ジュリオ・ロマーノの作品につき、同時代の喜劇・詩作品(ビッビエーナ、アリオスト)が解釈の鍵を提供することを明らかにし、論文を刊行した。また、同時代の詩人・劇作家ピエトロ・アレティーノの美術批評がティントレットの絵画様式の形成に果たした重要な役割を具体的に示すことを試み、近く論文として刊行する予定である。その他、ティントレットと同時代俗語訳聖書の問題、テイントレットと北方版画の問題につき、これまでに指摘されていない関連、ないし先行研究における解釈の誤りを看取することができた。これらの成果についても、論文にまとめることを検討中である。
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