本研究の第一の課題である南米植民地美術データベースの構築について、本年度はボリビア所在の聖堂に関するデータの整理を進め、その主要部分の作業を終えた。データベースはすでに、ウェブサイト(http://art.f-edu.fukui-u.ac.jp/〜webarcos/)において公開されている。またペルー所在の聖堂についても、撮影ポジ画像のデジタル化作業をほぼ完了した。 このデータベース・コンテンツ作成と連動しつつ進める、植民地聖堂における美術装飾図像とその宣教上の機能についての体系的研究に関しては、研究代表者が美術史学会第56回全国大会において研究報告をおこなった他、分担者齋藤は本紙裏面に示した論考において成果を公刊している。その研究の焦点は、南米スペイン植民地における集住制度(いわゆる「ミッション(布教区)」を含む)こそが、植民地における文化形成をめぐる力学に決定的な役割を果たしたのではないか、という問題設定である。本研究プロジェクトはこの点を軸として、「民族性」といった暖味な前提に依拠しがちであった従来の植民地美術・文化論の問題点を明らかにするとともに、それに代わる新たな議論の枠組みを提示しつつある。 なお本研究に関し、研究代表者はボリビアに出張し、カラブコ聖堂他で追加的な実地資料調査をおこなった。また分担者齋藤は、植民地におけるイエズス会の美術図像利用にかかわる史資料調査を用務として、ベルギーおよびドイツに出張した。
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