本研究は、東欧やロシアの農村において、結婚式や葬式などの機会に器楽奏者として雇われ、舞曲などを提供してきたロマ(ジプシー)やクレズマー(東欧ユダヤ人社会の大衆音楽家)による音楽について、それを20世紀音楽史の総体の中に位置づけ、その影響と意味を探ろうとするものである。 初年度にあたる平成15年度には、まず上記ロマやクレズマーによる音楽の実態を把握するため、東欧における民俗音楽に関する先行研究の整理と把握につとめた。また、それが大衆音楽に与えた影響を探るために、主にアメリカにおける大衆音楽の歴史についての文献の整理も行った。さらに東欧・ロシアにおける20世紀の作曲家について情報を収集し、本研究課題の視角から具体的な作品の検討を進めた。 また本年度の研究のうち、とりわけ重要だったのは、2月にバーゼルとロンドンでおこなった調査である。この調査は、上記のような民俗音楽が20世紀の前衛音楽に与えた影響の具体相を探るために計画したもので、バーゼルでは20世紀音楽の一次資料の最大の集積所であるパウル・ザッハー財団において、バルトークやクルタークの自筆楽譜を検討し、その作曲過程研究の端緒をつかんだ。またロンドンでは、東欧の音楽に関する専門家であるレイチェル・ベックレス・ウィルソン博士(ロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ校)に面会し、研究についてレビューを受け、今後の方針について議論した。
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