本研究は、東欧やロシアの農村において、結婚式や葬式などの機会に器楽奏者として雇われ、舞曲などを提供してきたロマ(ジプシー)やクレズマー(東欧ユダヤ人社会の大衆音楽家)による音楽について、それを20世紀音楽史の総体の中に位置付け、その意義と影響を探ろうとするものである。 平成15年度のハンガリー、16年度のポーランドにつづいて、平成17年度においては、ルーマニア(特にモルドヴァ地方)に焦点をあて、この地域の出身で世界的な演奏家、作曲家となったジョルジェ・エネスクの作品とロマのヴァイオリンの関連についての論文をまとめた。また、本研究の研究課題である「楽師」を含むヨーロッパ民俗文化の世界について、農村の「粉屋(つまり水車小屋の主人)」を扱ったいくつかのフォークロアと、シューベルトの歌曲の関連についての研究もまとめた。そして、最終年度の作業として、これまでの研究の報告書をまとめた。 この報告書は、中心的調査対象であった、ロマ(ジプシー)、クレズマーだけではなく、さらにロシアのスコモローヒ、あるいはルーマニアの「ラウタール」と呼ばれた楽師達の音楽について言及し、さらにそれを20世紀音楽の幾つかの作品(ショスタコーヴィチ、リゲティ、エネスク、バルトークなどの作品)との関連において論じるというもので、全100頁程度の研究となる。報告書として提出した後、単行本として出版する予定である。また今回の研究を通じて知り合った国内、国外の研究者たちと共に共同研究を組織し、来年度以降ロマの音楽についてのフィールドワークを中心とした調査を実施することを予定しているが、これは本研究の直接の発展型である。
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