18世紀後半のスペイン国王カルロス3世(在位1759-1788)とカルロス4世(在位1788-1808)の治世における宮廷美術の「規範」や「場」を具体的に検証し、その宮廷で公的な画家として制作活動を続けたフランシスコ・ゴヤ(1746-1828)の作品群を再検討することが本研究の目的である。本年度もマドリードにおいて夏期の調査を行い、とくにカルロス4世の宮廷美術に焦点をあてて、文献資料収集ならびに近郊の離宮で写真撮影を実施し、帰国後に資料整理と分析をおこなった。その結果は以下の3点にまとめられる。 1.カルロス4世が、きわめて若い王太子時代から美術に対し強い関心を示したことに注目し、彼の命による宮殿装飾と美術品収集について関連資料を集めた。その資料に基づいて国王の美の嗜好を再構成し、スペイン・ブルボン家の宮廷美術の成熟に合わせて、カルロス4世が優美で洗練された新古典主義の様式を定着させたことを検証した。とくにアラフエス宮の別邸カサ・デル・ラブラドールはその結実といえる。 2.カルロス4世が王太子時代に建設されたエル・パルド宮の別邸カシータ・デル・プリンシペは現在修復中で一般に公開されていないが、今回、国有財産(Patrimonio Nacional)に特別許可を得て、写真撮影を実施した。また建築家フアン・デ・ビリャヌエバに対するカルロス王太子の庇護を具体的に知ることができた。 3.カルロス4世の治世における、ゴヤの1790年代の制作活動を再検討し、「国王のお気に入りの宮廷肖像画家」という通説に対する批判をおこなった。その考察は「プラド美術館展」(東京都美術館、2006年3月25日より開催)のカタログの巻頭論文「スペイン・ブルボン家の宮廷美術の展開とゴヤ」のなかで詳細に論じた。
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