本年度は当初の計画通り江戸時代の動物画作品について、とくに関西圏での所在調査を行った。対象となった流派は円山派や森派である。調査は美術館・博物館を中心にさらに個人コレクター先でも行った。とくに森派については肥後細川藩との関係が非常に深いことが明らかとなったため、九州での調査が来年度以降の課題として残された。研究代表者は本研究課題に関して、すでに「兎」「鳥」「猪」などをモチーフにした作品について調査・研究を行い、論文も発表しているが、本年度は「虫」「狐」「犬」に関して作品調査と並行して精力的に論文執筆も行ってきた。また江戸の動物画を研究するに当たっては、その象徴性や寓意性、あるいは謎語など「言葉あそび」の範疇からの考察が不可欠であるため、そうした点にも留意し、資料収集を行う上では文学領域からの研究成果も丹念に追うようにこころがけてきた。その結果、江戸の動物画研究に関しては、近世文学では俳諧や俳文、また中世文学では和歌や御伽草子研究の成果が大きく関わるとの見解に至ったため、本年はそれらの最新知見に関して目配りするように務めた。さらに「動物」を人文科学の分野において主題とする「視点」のあり方に関しては、フランスのおけるアナール歴史学派の方法も大いに参考となった。これについてはさらに継続して方法論を学んで行きたいと考えている。以上のような研究状況のなかで、本年度は「虫たちの在り処-写実と擬人のあいだ」(『国文学 解釈と教材の研究』第48巻8号、2003年7月)を発表。また先年発表した「仔犬と髑髏-長沢蘆雪筆<憑き物三幅対>をめぐるフォークロア(上)」(『学習院女子大学紀要』第5号所載)の後編を執筆。後者は年度内に発表する機会を得ることができなかったが、2004年度中に刊行予定の著書『江戸の動物画』(仮題、東京大学出版会)に前編と合わせ所収の予定である。
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