2年目にあたる本年度の研究は、初年度から引き続き、海外ならびに日本での資料調査とそのデータ化に力点を置いた。具体的には、10月上旬と3月下旬にパリの国立美術史研究所図書館を中心として、19世紀後半から20世紀初頭にかけて出版されたフランスの美術全集の精密な調査とその内容の点検と、日本での全集の調査を大学図書館、古書店等で行なった。また、そうした調査から得られたデータの資料体として整理した。 本年度の調査、研究から得られたフランスでの美術全集誕生期の概要は次のようなものであった。 1 フランスにおいて美術全集は1840年代から刊行され始め、第二帝政に入った60年代から美術全集という形式が認知される。そして、80年代から全集の企画は急速に増加し、20世紀に入ると美術図書のもっともポピュラーな形式として定着していく。 2 最初に刊行されたフランスでの美術全集は美術の歴史を時代ごとに巻分けするものが中心だったが(現在にも続く)、しだいに個人のモノグラフィーや技法書(歴史記述を含む)など全集のコンセプトが多様化していく。 3 美術全集における記述の中心は、通史の場合であれば時代の様式変遷と美術家の伝記を中心とし、個人の画集の場合であれば伝記が大部を占めた。この伝記的記述によって、美術家とその作品が広く社会に認定されることになったと想像される。 4 また、全集は時代の文化的、政治的傾向を美術家の選択と記述内容の中に強く反映する。 フランスの全集の調査と平行して近代日本の美術全集の調査も行なった。その中で、もっとも興味深い現象は、フランスではほとんど見られない画家の全集執筆者の存在である。このことと内容は深く関係する。
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