19世紀後半に出現する「美術全集」は、時代を経るにしたがい、種類の多様化とともに社会に根付いていく。この「美術全集」の普及は、美術史という言説を大衆化すると同時に、美術史が広く一般教養文化の重要な項目として社会に根付いていくことを意味する。こうした道筋を仮説として開始した本研究は、その最初の目標を、フランスにおける「美術全集」の誕生期から発展期である20世紀前半(第二次大戦前まで)に出版された全集のリスト化である。そのリスト化をある程度終えた現在、そこからさまざまな問題が見えてくることになった。 なかでも重要な発見は、「美術全集」の直接の起源の解明である。「美術全集」は19世紀に誕生する小型の教養文庫シリーズから誕生してきたことが判明された。フランスでは19世紀中葉「メルヴェイユ」叢書という20世紀にまで続く百科全書的教養文庫が誕生するが、そこに含まれていた美術関係の著作が、「美術全集」誕生に影響を与えていると推測できるのである。「美術全集」は、始めから美術を教養のレベルで捉える言説として出発したのである。また、「美術全集」が、美術史の言説形成に与えた影響も明になった。たとえば、近代絵画史は、20世紀の多種の全集とその量によって社会に根付いていくことが推測される。このように、「美術全集」は想像以上に、美術史言説と関わりをもつことが明らかになったのである。さらに、日本における初期の「美術全集」は、西洋のそれに大きく影響されていることも検証することができた。とりわけ、その近代絵画史の日本における確立にとって西洋の「美術全集」の果たした役割の重要性を確認することができた。
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