3年間にわたる本研究において、明らかになった主な事柄を3点概要する。 1 西洋(フランスを中心とした)における「美術全集」の萌芽は19世紀初頭であり、その起源として18世紀の版画集と百科事典があげられる。そして、世紀後半に至り「美術全集」は市民権を獲得し、20世紀に美術啓蒙書として決定的な地位を獲得する。こうした歴史さえもこれまでは明らかにされてこなかったことを考えると、本研究は一定の成果をもたらしたということができる。 2 「美術全集」が美術啓蒙に果たした役割はさまざまだが、なかでも「近代絵画」観の成立と普及に関する役割は大きい。「美術全集」の時代を迎える1910年代から、いわゆる「近代絵画」史観が「美術全集」において具体的に展開されることとなった。こうした全集は時代の印刷技術の発展により、ヴィジュアル編集が可能となり一般にわかりやすい書物を提供することとなった。印象派に始まる「近代絵画」史観が、近代の絵画の歴史の主潮流となったことの一因に「美術全集」が深く関わっていることが明らかになった。 3 西洋における「美術全集」は、近代日本の美術趣味の展開に大きな影響を与えたことも、本研究の成果のひとつである。大正時代に本格的に姿を現す「美術全集」は、西洋との時間的ズレによって、「近代絵画」史観を導入することになった。それが日本における最初のメディア時代である大正であった。日本における西洋絵画観が「近代絵画」史観に基づいている要因のひとつである。
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