今年度は、スティーグリッツのドイツ留学時代における写真観の展開について、先行研究の精査とイエール大学のスティーグリッツのアーカイヴに所蔵されている未刊行の資料の調査によって、ドイツ留学時代から「カメラ・ノーツ」編集に至るまでの彼の写真観の展開を立体的に研究した。 (1)ベルリン時代の写真観の形成の解明にあたって、スティーグリッツの読書ノートを精査した。すでに、キーファーが言及しているノートであるが、その全体像がはっきりしなかったために今回の調査でその全体像が明確になった。 (2)(1)に言及した読書抜書き帳は、スティーグリッツの関心の所在と基本的な思想的構えについてはその概要を理解する貴重な資料であるが、写真についての彼の考えの展開を理解するにはキーファーによるマッハ、ヘルムホルツ等に関わる科学思想史的な視覚からの研究にくわえて、当時のドイツ写真界の状況の精査ならびにそれとの関わりでドイツの芸術界の状況の研究が不可欠であることが一層明確になった。 (3)今年度については、(2)で言及した事実認識に基づいてドイツの芸術状況と特に写真の状況について、スティーグリッツのドイツ滞在期から19世紀末までの展開を主にドイツ写真史関連の文献によって研究した。この過程で19世紀末のスティーグリッツの写真観展開に当代の科学思想に加えてユーゲントシュティルが大きく関わってきていることが明らかになった。さらに、アメリカへ帰国後の活動拠点となったニューヨークのアートシーンが極めて重要な意味を持っていることも別途イエールでの調査で明らかになった。 (4)(3)を踏まえ、20世紀冒頭でのスティーグリッツの写真観の形成を広いパースペクティヴの下で浮び上がらせるために、次年度はイエール大学のアーカイブに所蔵されている雑誌寄稿文や手紙等の調査を継続し、併せて当時の米国の芸術状況をヨーロッパを視野に入れつつ精査する。
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