17年度の業務の中心は、能の地拍子にかかわる過去100年間にわたる文献目録を作成することであった。作業のうち、書誌事項については、昨年度のうちにほぼかたまっていたので、今年度は、記載の仕方の体系的な書式を考える等、具体的に報告書の完成に向けた作業が中心となった。また、今年度は、147点におよぶ書物の内容にふれるコメント等を執筆した。これにより、地拍子の研究が概観できた。内容は、研究成果報告書としてまとめられた。 さらに、以上の書誌研究をつうじて得られた知見を論文にまとめることもできた。出版は、来年度になるであろう。 当研究の副題につけた三つのうち、「文献研究」については以上のとおりであるが、「知覚実験」については、研究代表者の未熟もあって、適切な方法をみつけることができず頓挫している。実験を適切に遂行するためには、実験室等適切な環境が必要であり、実験対象となる人も限られる。この点がクリアすべき今後の課題として残った。 「参与観察」については、民俗芸能等の練習への参与観察をつうじ、謡の学習者の拍子認識のあり方についての示唆を感じつつあるが、いまだ直感的な段階にとどまっており、成果として発表できる段階には至っていない。ただ、今回とりあげた「拍子」だけではなく、歌詞の音数律にもっと目を向けるべきであるということが、今後の課題として強く意識された。研究を次段階にすすめる上での大きなヒントである。 また、本研究を通じて、音数律と、それが生成する拍子の感覚についての体系的な調査が必要であることも痛感された。たとえば「はるがすみ」という五文字があるとき、人はふつう謡い出しの「は」そして「が」という位置にストレスを知覚するであろう。これは能の実際の拍子とは半拍ずれている。この点については、これまであまり指摘されてこなかった。こういった論点が発見できたのは本研究の大きな収穫の一つである。
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