交付申請書に記したように、本研究には、(1)近代美学における「啓蒙」的視点の系譜、(2)近代美学において「未開」のものがはたした役割、(3)現代の芸術や美意識における「啓蒙」的要素と「未開」的要素との葛藤とその意義という、3つの重点領域と解決すべき課題が設定されており、初年度にあたる本年度は、それぞれの課題について、基礎的な資料の調査と収集、それをもとにした研究業績の発表などを行なった。 まず、(1)については、『美学論究』に掲載の論文でまとめたように、カスティリオーネ、グラシアン、ルソーからカントにかけての思想的な流れのなかで、近代美学における「啓蒙」と「未開」の視点が互いに競合しあいながら発展してきた様子を確認した。 次に、(2)については、美術史学者ヴァールブルクによる「未開」イメージへの探求を、『人文論究』掲載の論文、『国際美学会議報告集』、さらには『ヴァールブルク著作集』の翻訳作業などを通じて明らかにした。 そして、(3)については、8月に行なったアメリカ東海岸への調査旅行のなかで、とくに現代アートにおける「暴力」の多様な表れを、ホイットニー・グッゲンハイム、メトロポリタン、ボストンなどの各美術館における所蔵作品のなかに確認することができた。その後に国内で行なった調査(国立西洋美術館、森美術館、徳島県立近代美術館など)でも、多くの興味深い作例について多くの資料を収集することができた。 次年度も、作品調査にもとづく多様な事例の分析と考察を積極的に進めていきたい。
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