交付申請書に記したように、本研究には、(1)近代美学における「啓蒙」的視点の系譜、(2)近代美学において「未開」のものがはたした役割、(3)現代の芸術や美意識における「啓蒙」的要素と「未開」的要素との葛藤とそ.の意義という、3つの重点領域と解決すべき課題が設定されており、2年目にあたる本年度も、とくに(2)および(3)の課題について、基礎的な資料の調査と収集、それをもとにした研究業績の発表などを行なった。 まず、(2)の課題については、いわゆる「南北問題」を扱う論文を収録した「ヴァールブルク著作集」第3巻(近日公刊)の翻訳作業のなかでその解決を試みた。その成果は、「ルネサンス」の美術史上の意味を再検討する「解題」のなかで発表の予定である。 次に、(3)の現代芸術や美意識における「啓蒙」的要素と「未開」的要素との葛藤とその意義を明らかにするという課題については、平成16年7月18日から23日までリオ・デ・ジャネイロで開催された第16回国際美学会議に参加し、この問題をめぐる研究発表を行うことで解決した。そのなかで、本研究の目的や成果への関心を共有する多くの研究者たちとの意見交換を行なうことができたのは有意義であった。また、それに前後して国立西洋美術館など、国内で行った調査でも、多くの興味深い近現代の作例について資料を収集した。さらに、『西洋美術研究』に掲載された論文では、「テクノロジー」という現代文明を代表する現象に含まれる「啓蒙」的要素と破壊的で暴力的な要素を、近代の美術史学研究に内在する、「複製」との深い結びつきを意識化させるかたちで摘出した。 次年度も作品調査にもとつく多様な事例の分析と考察を積極的に進めると同時に、最終年度になるので成果をある程度まとまったかたちで報告できるように努力したい。
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