今年度の研究は以下のような成果をあげた。環境芸術を手がかりにした環境美学の理論の構築を目的とする本研究は3年計画であり、全体の研究計画は(1)環境美学の理論研究と(2)環境芸術に関わる個別の実証研究という2本の柱にそって実施される。初年度にあたる今年度は、研究計画にそって、英国の環境芸術の実地調査を行った。環境芸術作品の調査を行った場所は、ブライナイ・フェスティニヨグ(北ウエールズ、グイネズ州)、グライズデイルの森(イングランド、カンブリア州)、コンセット=サンダーランド鉄道跡地(同、タイン・アンド・ウエア州)、ディーンの森(同、グロースター州)、ニュー・マイルストーン・プロジェクト(同、グロースター州)、グッドウッド彫刻公園(同、ウエスト・サセックス州)などである。北ウエールズ地方、北部イングランド、南西イングランドなど、英国各地に散らばる環境芸術作品の実地野外調査の時期を、その主な設置場所である森林公園が開放されている夏期(8月)に設定することによって、効率的な調査を行うことができた。この現地調査により環境芸術に関わる詳細な分析・検討を行ったが、とりわけ環境芸術を取り巻く環境、すなわちその地域の特殊な事情の中で、いかに自然と人間の共生という理念を実現し、経年変化の中でどのようにその役割を果たしてきたかについての考察を深めることができた。また同時に英米の最新の環境美学に関わる文献を精読することで、とくに英国の環境美学研究の現状を把握し、自らの構想である環境美学の論理との異同を確認することができた。
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