環境芸術を手がかりにした環境美学の理論の構築を目的とする本研究は3年計画であり、全体の研究計画は、環境美学の理論的研究と環境芸術に関わる個別の実証研究という2本の柱にそって実施された。最終年度に当たる平成17年度は、過去2年間の研究成果をふまえ、さらに環境芸術に関わる理解を深め、その現状を認識し、また自らの理論との整合性を確認するために、最新の英国の環境芸術作品の実地野外調査を行った。調査を実施した箇所は、スコットランド、ダンフリースシャーとイングランド、カンブリア州にわたって点在するシープフォールズ・プロジェクト、マージーサイド、セフトン・コーストの《アナザー・プレイス》、そしてイースト・サセックス州のハート・オブ・リーズ・プロジェクトである。これらの詳細な実地調査によって明らかにされたことは環境芸術は、とくに最近の状況をみると、長い時間をかけて芸術が捨ててきた「歴史」や「物語」を作品のなかにとりこもうとするものが多くなってきているという事実である。そこには環境芸術のあらたな方向性、すなわち特定の場所のためにつくるという性格を一歩進めて、その場所や風景の歴史に関わり、その場所や風景の物語を語るようになってきていることが明らかになった。とくにこうした作品は、永遠の自然ではなく現代の歴史的時間を持つ死すべき自然を扱っており、そうした自然に対する人間の関係を築くための一つの指針を示すものになっている。ロマン主義の自然観を基礎に試みられた環境美学の構築というテーマはさらに一歩進んで、西洋哲学の伝統的な自然観で把握することが著しく困難になってしまった現代の白然環境についても考察することでさらにより現実的で、具体的なものになりうるだろう。これらの成果は報告書「自然・風景・環境-環境芸術を手がかりにした環境美学の構築」にまとめられた。
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