平成16年度科学研究費補助金の援助によって、説話文学、仏教文学のみならずインド学・仏教学、また、宗教研究関係の学会に出席し、新たな知見を広く獲得した。また、普段は入手が困難な文献を、おもに東京大学東洋文化研究所にて多く収集することができた。そして、こういった好条件を利用して、学会発表「シビ王本生譚の主題とその達成」を行った(於北海道印度哲学仏教学会・平成16年度学術大会、平成16年7月)。その内容を論文(研究発表と同題)に執筆し学会の機関紙(『印度哲学仏教学』第20号、平成17年10月刊行予定)に収載される予定となっている(拙稿「シビ王本生譚の原型と展開」<『伝承文学研究』第46号、平成9年>を承けての考察である)。その論旨を簡単に記せば-「鷹と鴿」(シビ王が鳩の命を救うために鷹に自らの肉を与える)型のシビ王本生譚は日本・平安時代成立の『三宝絵』に入った。この話型(タイプ)のシビ王の説話は『マハーバーラタ』「森の巻」の話に見るよう、本来は「すべての生き物・人民を守るべし」という、バラモン教における王の務めを説くものであった。それが、仏典に入って「求法」(肉体を犠牲にして仏の教えを説く一偈を求める)あるいは「布施」を主題とする説話へと変わったと考えられる。しかし、「鷹と鴿」型のシビ王本生譚は、そのように新たな主題を与えられても、この話型のままでかならずしもそれらの主題を十分に達成・表現し得ているとは言えない。そうした新たな主題に応ずるべく、「施身聞偈(雪山童子)」型、「盲目のバラモン」型という新たな話型を取り入れてゆくことになったと考えられる-というものである。なお、このような科学研究費補助金の援助による研究活動のなかで、本来の専門である日本文学の研究者たちばかりでなく、インド哲学や仏教学の研究者たちと交流を深めることができたのも大きな成果のひとつであったことも付け加えておきたい。
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