研究概要 |
本年度は、研究計画通り、8月4日〜8月13日の日程でカナダへ出張し、トロント大学のソーニャ・アンツェン教授と『更級日記』の翻訳に関する共同研究を実施した。 アンツェン教授は、コロンビア大学のハルオ・シラネ教授の依頼を受けて、"Early and Medieval Japanese Literature, An Anthology"(Columbia University Pressより刊行予定)に収録される『更級日記』の抄訳を準備しており、この抄訳原稿の検討が、今回の共同研究の中心的課題となった。アンツェン教授自身、あらかじめ疑問点等を整理していたこともあって、作業は効率的に進めることができた。アンツェン氏の日本文学に対する造詣は深く、『狂雲集』や『蜻蛉日記』の翻訳経験も有しているのだが、そんな学識と経験の豊かな日本文学研究者にとっても、平安時代の日記作品の翻訳は簡単な仕事ではない。この共同作業を通じて、日本語の原典そのものに由来する難読箇所も含めて、現在の日本の研究状況を説明し、できるだけ明晰な英訳を目指して修正を施した。 なお、上述のアンソロジーでは、紙幅の都合であまり詳しい注を付すことはできないので、我々の翻訳では、できるだけ丁寧な注釈を加えることを確認した。来年度の共同研究においては、注を付す箇所とその具体的内容の検討が主な作業となる予定である。 伊藤は、科学研究費で購入した研究書等も活用し、昨年末「読書家の日記としての『更級日記』-英語圏における『更級日記』研究の歴史と問題点-」という論文を執筆しており、この論文は、『更級日記の新研究-孝標女の世界を考える』に収録の上、新典社より刊行予定である。
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