研究概要 |
本年度は、9月2日〜9月20日の日程でカナダへ出張し、『更級日記』の翻訳に関するソーニャ・アンツェン教授(トロント大学)との共同研究を実施した。なお、当初は二度の出張を予定していたが、日程的都合のため二度目の出張は実施できなかった。ただし、伊藤は他の研究基金の助成によって、日本文学国際シンポジウムを弘前大学で開催する計画を立てていたので、講演者の一人としてアンツェン教授を招請することによって、二度目の共同研究を10月に実施することができた。 9月と10月に実施された共同研究は、基本的に前年度に行なった翻訳の見直し作業が中心となった。というのは、Columbia University Pressから刊行を予定されていた"Early and Medieval Japanese Literature, An Anthology"の出版が遅れ、昨年提出済みの原稿を見直す余裕と必要が生じたからである。また、前年度の段階では未完成であったアンツェン教授による「解説」については、伊藤に対して修正意見の提出が求められた。そこで何度か意見交換を繰り返すうちに、アンツェン教授の側から解説は伊藤が執筆した方がよいという提案がなされ、アンソロジーの編集者(ハルオ・シラネ教授)の了解を得て、解説は、まず伊藤が日本語で執筆し、それをアンツェン教授が英訳して提出することとなった。これらの原稿はすべて完成して、すでに編集者に送付済みであり、伊藤もアンソロジーの執筆者の一人になったが、本年度の共同研究は、こうした修正作業が中心であった。 なお、昨年も言及した『更級日記の新研究-孝標女の世界を考える』が新典社より公刊され、「読書家の日記としての『更級日記』-英語圏における『更級日記』研究の歴史と問題点-」という伊藤の論文が収載された。また、上述のシンポジウムでは、アンツェン教授が「国際共同研究による翻訳の意味-英訳『更級日記』の新旧比較を中心に-」と題する発表を行ない、伊藤も「外から見た平安文学」と題する発表を行なった。
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