研究概要 |
平成15年度〜平成17年度の間に、伊藤は、トロント大学名誉教授ソーニャ・アンツェン氏と延べ6回にわたって共同研究を実施し、『更級日記』の翻訳作業を進めた。その結果、現時点で、『更級日記』本文の翻訳は、すべて終えることができた。今後は、注釈と解説の作成に取り組み、できるだけ速やかに新訳『更級目記』のアメリカでの刊行を目指す予定である。 この間の研究成果として、研究成果報告書には3編の論考(うち1編は翻訳)をまとめた。 最初に掲載した翻訳は、"Traditional Japanese Literature, An Anthology, Beginnings to 1600"(ハルオ・シラネ編、コロンビア大学出版部、2006年7月刊行予定)に収録された『更級日記』の新訳である。解説を伊藤が作成し、ソーニャ・アンツェン氏が主に翻訳を担当した。 "The Domestic and the Foreign in Heian Literature"("Japanese Cultural Nationalism at Home and the Asia Pacific"Global Oriental、2004年、pp.36-45)は、2002年にニュージーランドのオタゴ大学で開催された日本の文化的ナショナリズムに関するセミナーで発表された原稿に基づくもので、本居宣長の『源氏物語』論の偏差を明らかにするために、『更級日記』における菅原孝標女の『源氏物語』享受に言及している。 「読書家の日記としての『更級目記』-英語圏における『更級日記』研究の歴史と問題点-」(『更級日記の新研究』新典社、2004年9月、pp.182-202)は、副題に示す通り、英語圏における『更級日記』研究の歴史を紹介しつつ、その問題点を指摘したもので、本研究の存在理由を説き明かした内容となっている。 その他、この期間に伊藤は、弘前大学において2度にわたって日本文学国際シンポジウムを企画し(平成15年度、16年度)、司会と研究発表を行ない、更に平成17年度には、ソーニャ・アンツェン氏を学習院女子大学に招聘して講演会を実施している。
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