本研究の初年度である平成十五年度の研究を始めるにあたって、今までの基礎的調査で充分な情報が得られていなかった書目や項目について、分担者と綿密な検討を加え、その結果、現在まで未調査であった読本コレクションの書誌調査を最優先とすることを決めた。 夏休みには、読本研究の先駆的役割を果たしてきた京都大学名誉教授・濱田啓介氏に許しを得て、御架蔵の読本コレクションの調査を行った。この調査では、各標目について書誌学的に問題になる表紙・見返・序・口絵・巻頭・刊記等のデジタルカメラによる撮影を行った。その結果、従来所在の知られていなかった初摺本等を発見することが出来た。 また、この折には、近世期最大の貸本屋であった大惣の旧蔵本を多数所蔵する京都大学附属図書館の読本の一部をも調査した。此処では撮影が出来なかったので手書きによる書誌カードで調査をしたため、予定していた標目数の調査ができなかった。したがって、来年度以降の調査が必要となる。 その他にも折を見付けて、東京都立中央図書館や天理大学附属図書館へも不足している書誌情報を得るために足を運んだ。 年度末には、在野の近世文学研究者として著名であった故林美一氏の旧蔵書を収めた立命館大学アートリサーチセンター蔵林コレクションの調査を行った。従来は林氏の著述を通じて一部分しか明らかにされていなかったその蔵書に関して、その全体像を直接調査できたのは幸いであった。その結果、国内に所蔵の稀な稀覯本や、初摺本の形態が知られていなかった標目を実見して調査することができた点、成果は大きかった。この膨大なコレクションの一部はインターネット上に画像データとして公開され始めているが、今回の調査を通じてさらに公開が促進されることが望まれる。 来年度以降、大きな国公立機関の所蔵するコレクションに関する調査を継続する必要があるのは勿論であるが、地方の機関や、個人蔵の読本コレクションの発掘が課題になるとの感触を得たので、次年度以降の課題として前向きに取り組んでいきたい。
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