(1)研究課題とした漢籍読書ノート四点の内、奥田松斎『拙古堂日纂』(大阪府立中之島図書館蔵)、都賀庭鐘『過目抄』(天理大学付属天理図書館蔵)の二点について、収蔵機関に赴いて調査研究を実施した。『拙古堂日纂』は、大部の分量を有し、かつ資料性に優れることが判明したため、成果報告は本書を中心にして行う方針である。そのため、大阪府立中之島図書館には、確認作業のため、二度訪館した。また、国立国会図書館、東京大学東洋文化研究所、同総合図書館、同文学部漢籍コーナー、京都大学文学研究科図書館、東北大学付属図書館狩野文庫などにおいて、抄記された明清漢籍(板本)および、奥田松斎、都賀庭鐘、森川竹窓、上田秋成の著作について調査を実施した。明清漢籍については、上記図書館・文庫において、可能な限り、奥田松斎らが抄記披見した漢籍とわが国伝存の明版、清版諸版との照合を行い、成果報告書の記載を精密にするための調査を実施した。松斎らが上方人文社会において、受容の先端的な役割を果たしたことがますます明らかになったが、彼ら知識人のそれぞれの伝記、また知識人同志の相互交流、書肆を含めた和刻本出版のありかた、文学や学芸の著作への援用などの観点から、調査を実施した。また、読書ノートそのものの問題として、近世中期上方人文社会の好尚(例えば文房書画)や漢籍の批注のありかた(抄物史の中の位置づけ)などに留意した調査を実施した。また、明清板本・および書目研究の基本文献について調査した。 (2)15年度の成果として発表した「明人文集と上方の学芸-『拙古堂日纂』を視座にして」(「国語と国文学」81-9 2005.9)は、研究課題の読書ノートの内、奥田松斎『拙古堂日纂』を考察の対象とし、近世中期の学芸と小説を論じたものであるが、本論文を収録した『名分と命禄-上田秋成と同時代の人々-』(ぺりかん社2006.2)を刊行した。
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