本年度は研究課題「往来物出版を基軸とした我が国近世江戸期出版状況に関する基盤的研究」(平成15年度から17年度)の最終年度にあたり、次のような研究を実行し、成果を得た。 1.近世前期の字尽系往来を中心に、国立国会図書館の資料については実地に、東京学芸大学附属図書館望月文庫所蔵本については同図書館作成の画像データベースにより文献資料を継続的に調査した。 2.古書肆の販売目録より、良質な内容を備えると判断された往来物原本資料を収集した。また女子用往来の写真版複製である『女大学資料集成』を収集した。 3.以上の研究をふまえ、次のような考察結果および成果を得た。 (1)元禄年間は用文章系の版本が盛んに作成された時期であるが、本研究の期間中に、従来知られていなかった男子用の逸題『用文章』(和多幸友子作・元禄十二年万屋仁兵衛刊)を発見した。 (2)本書は当時一般化していた実用的な多くの用文章と異なり、かつての『庭訓往来』あるいは近世初期に出版された『貞徳文集』などと同様に、字尽的部分を各状の中に残した特異な内容を特徴としていることが明らかになった。 (3)元禄年間の大坂版用文章としてきわめて個性的な内容を備えた貴重な版本であることに鑑み、全文を研究誌に翻刻紹介する(予定)。
|