江戸時代の前期製作の絵巻物については、これまで、国文学はもちろん、美術史・日本史といった分野からも、ほとんどまとまった研究はなされていない。今日までの絵巻物の研究は、主に美術史の側から、室町時代以前製作の、現在、国宝や重要文化財に指定されている作品を対象にすることが多かった。しかし、私の調査によれば、絵巻物が圧倒的に多く製作され、今日最も多く残されているのは、江戸時代前期製作の絵巻物である。しかも、これらは、前代の絵巻物の模写ではなく、内容的にも個性的な絵巻物が目立つのである。このような現状のなかで、江戸時代前期製作の絵巻物の基礎的な研究を国文学の立場から目指した。最初に、持ち運び用のパソコンやデジタルカメラ等の機械類を揃えた上で、絵巻物を所蔵する機関に赴き、調査、並びに許可が出たものについては撮影を行った。現在は持ち運び用のパソコンに画像等を取り込むことができるので、全国各地の調査で持ち運び用のパソコンに保存した画像を、研究室で大容量のパソコンに取り込み、一つずつの作品の画像処理を行うのである。本年度の主な調査撮影地は、兵庫県立歴史博物館、本法寺、京都市文化博物館、京都国立博物館、奈良国立博物館、金沢市立美術館、北上市鬼の館、新庄市歴史民族資料館、箱根神社、逸翁美術館、ハーバード大学フォッグ美術館、ボストン美術館等である。これらのうち、個人の撮影を認めず、所在地の業者に撮影を委託する所蔵者には、絵巻物全文のカラー写真の作成を依頼して作成した。こうした資料を収集した上で、絵巻物のタイプによる分類や、詞書き筆者の確定、絵師の推定を行った。また、国文学上重要な作品であるものは、その紹介や翻刻・影印を学会誌等に発表を行った。
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